サクラ大戦25周年を勝手に応援!「アニメで究めろサクラ道!」02:OVA『轟華絢爛』女たちのサクラ大戦

 OVA『サクラ大戦 轟華絢爛』は相当ややこしい構造を持った話だ。

 この作品は全6話のオムニバス形式になっている。どの話数も冒頭は決まっていて、「サクラ大戦2」のラスト、巴里に留学することになった主人公の大神一郎が、帝都最後の夜に荷物整理をしている。すると、ヒロインから受け取った思い出の品が見つかって、ゲームの裏で起こっていたサイドストーリーが回想される。だが不思議なことに、そのサイドストーリーへ、大神はほとんど登場しない。

 お話の最後、その回で主役になったヒロインが、ストーリーに登場したあるアイテム(冒頭に登場する品と同じもの)を大神に渡す。大神はおそらくやっとここで、事件の全貌を聞かされる。要するにこのシリーズは、伝聞の回想という形式をとっているのだ。ややこしいことこの上ない。普通にヒロインの話にすればすっきりするではないか。実際、ノベライズ版では大神の描写はなくなっている。

大神さんが安心して未来に帰れないんだ!

 では、なぜこんな妙ちきりんな形式をとることになったのか。カギは、『轟華絢爛』が発売された時期にある。

 『轟華絢爛』の第1話は1999年12月18日に発売されている。このちょうど2ヶ月前、10月18日に、「サクラプロジェクト2000」という大規模なシリーズ展開構想がぶちあげられた。次回以降の連載で取り扱うTV版や劇場版も、ここで情報が初公開されている。既に発表されていた『轟華絢爛』についても、映像が先行公開された。

 そして、このプロジェクトの目玉中の目玉が、ドリームキャストにハードを移してのナンバリングシリーズ最新作、「サクラ大戦3」だった。巴里に旅立った大神が、そのまま現地で新たな華撃団の創設に協力するというストーリー。当然、ヒロインは一新される。

 したがって『轟華絢爛』が発売されていた1999年末から2000年というのは、「サクラ大戦2」のラストで描かれた帝都ヒロインたちとの別れが、単にとってつけたお涙頂戴ではなく、ファンにとってリアリティを持ち始めた時期でもある。だからこそ、花組は花組だけで自立してやっていけるということを、プレイヤーに納得して安心してもらうため、ヒロイン達で完結した話を大神が振り返る複雑な語りが選ばれたのではないだろうか。

 いや、製作陣の意図なんかどうでもよろしい。少なくとも私にとって『轟華絢爛』はそういう作品であった。もちろん私は1991年生まれで、当時は純朴な小学2-3年生、リアルタイムの経験はない。だが、後追いで『サクラ大戦3』をプレイしていた2014年、私は巴里で出会ったロベリアにぞっこんになりつつも、帝都のみんなが元気にやっているか心配でしょうがなかった。大神がいない花組はまともに戦えないんじゃないか。『桜華絢爛』がそうだっただろ。アイリスのわがままも、俺は無限の愛で許してあげられるけれど、マリアやすみれは耐えられるだろうか……。

 そんな私にとって、『轟華絢爛』は福音だった。大神がいる時ですら、大神の知らぬ間に、彼女たちは勝手に問題にぶつかり、勝手に解決し、勝手に成長していたのである。失礼極まる心配はやめて、安心して巴里で浮気に励めばよかったのだ。

もう一つの「夢のつづき」

 「大神から自立した花組」というテーマ性は、回を追うごとにより強くなっていく。それが現れているのが、冒頭に登場する思い出アイテムの変化だ。

第一話:マリアが宿敵を倒すのに使った銃弾。
第二話:縁日でアイリスが獲得したキーホルダー。
第三話:すみれが鎮めた女優の霊の髪飾り。
第四話:紅蘭が演じたヒーロー「少年レッド」の本。
第五話:窓から入ってきた桜の花びら。
第六話:なし(第五話の続き)

 三話目まではまだ、お話の中に登場する特別なただ一つの品物だ。それが四話目では、大量に刷られた本の一部にすぎない。「その本」が登場するエピソードではあるのだが、大神の手にある「その一部」が登場するわけではない。強烈なのは第五話で、確かに第六話ラストに、さくらの髪に付着した花びらを大神がとってあげるシーンはある。しかしその花びらは、第五話冒頭で外から入ってきた花びらと、たぶん別ものだ。ヒロインの思い出と大神を接着していたアイテムは、後半その力を限りなく弱めていく。

 そして最終話、「女たちの新時代(あした)」の冒頭に大神は出てこない。そこでは、さくらが結婚し実家に帰ると知った花組隊員が、自らの行末を思い悩んでいる。さくらを失うのは寂しい。でもそれは自分たちの未来の姿かもしれない。いや、今の時代家庭に入ることだけが女の幸せでもあるまい。舞台と家庭の両立も目指せる。とはいえ、命がけで帝都を守り戦うことまでできるだろうか……。ここで彼女たちがぶち当たっている問題は、もはや大神がいてどうにかなるような性質のものではなくなっている。

 最終話のラスト、シリーズのフィナーレは、さくらと彼女を連れ戻しに来た花組による、仙台特別公演である。歌われるのは「ゲキテイ」に並ぶシリーズの代表曲、「夢のつづき」だ。

この夢がずっとずっと 続いて欲しい
わたしの恋は 輝いているわ

歌をさあ 歌いましょ それが夢の続き
高らかに愛を 歌う喜び

 この曲は「サクラ大戦2」のエンディングテーマであり、「夢」とはもともと、大神とヒロインが過ごした愛の日々を意味していた。『轟華絢爛』でその「夢」は全く違う「夢」に読み替えられている。様々な困難はあれど、仲間たちと戦い歌うこの幸せを今は噛みしめたい。新しい時代の女として、自分の人生を歩んでいたい。大神との関係を離れ、彼女たち一人一人が人生を戦う、この「女たちのサクラ大戦」こそが、大神からの自立を進めた『轟華絢爛』の終着点だったのだ。

サークル夜話.zipによる幻のC98新刊、サクラ大戦評論本『〈サクラ大戦の遊び方〉がわかる本』は各委託書店・電子書籍販売サイトにて発売中。本記事を書いた新野安も編集・執筆で参加している。

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新野安
新野安(あらの・いおり)。1991年生まれの兼業ライター。サークル「夜話.zip」にてエロマンガ評論本を編集・執筆するとともに、『ユリイカ』『フィルカル』『マンガ論争』に寄稿。サクラ大戦のファンでもあり、2020年に『〈サクラ大戦の遊び方〉がわかる本』を発行した。推しはアイリス・ロベリア・昴・初穂・舞台版アナスタシア。