かねひさ和哉の「フライシャー大解剖」 第3回サウンド時代初期におけるフライシャーの改革①―アニメーションとジャズの見事な融合

 サウンドが付けられた初期(1930-33年頃)のフライシャー作品を語る上で欠かせないトピックが、アニメーションとサウンドの見事な融合だ。フライシャー作品ではジャズが始終歯切れよく奏でられ、声優はアドリブが交じった台詞を終始喋り続ける。音楽は一定のテンポでリズムを刻み続け、画面上に存在するすべてのキャラクターはそのリズムに合わせて体を揺らす……という具合である。この時期のフライシャー作品には一貫したプロットが存在しない。その代わり、ジャズとアニメーションの強い同期が作品にある種の一貫性をもたらし、フライシャー作品に唯一無二の味わいを与えているのである。こうしたフライシャー作品の独特の魅力は、いったいどこに由来するものなのだろうか。

 まず、スタジオではサウンドトラックの導入にあたってタイムシートが導入された。音と映像を同期させるため、より緻密なタイミングの調整が必要になったからであろう。そして、フライシャー作品の音楽と映像の同期に革命をもたらした人物が、当時スタジオに在籍していた音響監督のルー・フライシャーである。ルー・フライシャーはマックスの弟であり、『トーカートゥーン(Talkartoon)』シリーズの一篇『ホット・ドッグ (Hot Dog)』(1930)の制作にあたって新たにフライシャー・スタジオに加わっている。ウクレレ用楽譜の採譜に従事した経験があり音楽に精通していた彼の役割は、スタジオの音楽部門の統括だった。ルーは音楽のリズムに合わせて3分の1秒(8フレーム)ごとにアクションのタイミングを指示する「バー・シート」を開発し、劇伴音楽のリズムとキャラクターの動きのタイミングを以前よりも高度に同期させることに成功したのである 。

 フライシャーはサウンドの獲得によって、サイレント時代より存在していたメタモルフォーゼや荒唐無稽なギャグによるアニメーションの原初的な快感に加えて、リズムの快感が加わることで唯一無二の楽しさまでも獲得することに成功した。元々アニメーションは、実写に比べて映像のタイミングを細かく調整することが容易な表現技法であったといえる。タイムシートなどを活用することで、コマ単位で動きを調整できるからだ。フライシャー作品は音楽のリズムを映像のタイミングに忠実に反映させることによって、それまでになかった強烈な快感を作品に付加することができたのである。

 この時期のフライシャー作品の傑作―例えば『お化けオン・パレード(Swing You Sinners!)』や『ベティの山男退治(The Old Man of the Mountain)』など―には、観客の本能を刺激するような快感を湧き上がらせる何かがある。「見ていると体がうずうずしてくる」「見ていると踊りたくなる」といった、原初的な快感である。そこにあるのは言葉で言い表せない狂気と興奮と幻想の世界なのだ。

 次回の連載では、引き続きサウンド時代初期のフライシャー作品に着目し、その奇抜なユーモアセンスに触れていく。

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かねひさ 和哉
2001年生まれの現役大学生ライター。幼少期に動画サイト等で1930-40年代のアメリカ製アニメーションに触れ、古いアニメーションに興味を抱く。2018年より開設したブログ「クラシックカートゥーンつれづれ草」にてオールドアニメーションの評論活動を始める。以降活動の場を広げ、研究発表やイベントの主催などを行う。