サクラ大戦25周年を勝手に応援!「アニメで究めろサクラ道!」01:OVA『桜華絢爛』 これが一番カッコいいゲキテイだ!

 サクラ大戦と言えば、やっぱり「ゲキテイ」だ。各作品でいろんな「ゲキテイ」OPアニメを楽しめる。ではその中で、いちばんカッコいい「ゲキテイ」はどれか?勝手にズバリと断言すれば、それはOVA『桜華絢爛』である。その点も含め、今回は『桜華絢爛』の見所を3つ紹介したい。

基本情報

 『サクラ大戦 桜華絢爛』は、1997年に発売開始されたOVAで、サクラ大戦シリーズ初のアニメ作品である。初代「サクラ大戦」の発売が1996年、「サクラ大戦2」の発売が1998年だから、ちょうど間にあたる。初代「サクラ大戦」の前日譚が3話分と、サイドストーリーが1話分、全4話構成だ。

 監督は石山タカ明。もはや懐かしい『仏陀再誕』(2009)なんかも手掛けているが、『桜華絢爛』との関連で重要な監督作は『機神兵団』(1992-1993)だろう。同作の魅力は、ロボット「雷神」の異様に丁寧な起動シーンだった。そのフェティシズムは、例えば第4話の翔鯨丸出撃直前、ストーリー上全く無意味ながら蒸気ピストンの動きを映すカットなんかに、しっかりと引き継がれている。

見所1:最もカッコいいゲキテイ

 早速「ゲキテイ」のカッコよさを語ろう。ただ、映像を言葉で説明するには限界がある。本作のOPはyoutubeで無料公開されているので(https://www.youtube.com/watch?v=9NJjHPzvNNE)、まずは自分の目で確認してほしい。

 まず、ピンク色のスポットライトにさくらの影が一瞬映る。イントロの「テーレーレーレーレーレー!」に合わせて次々カットが切り替わり、すみれ、マリア、アイリス、香蘭、カンナの影が、パーソナルカラーのライトに現れる。音楽と映像がユニゾンして、いきなりメチャクチャ気持ちいい。ライトが高速で動くことで、映像の打楽器的ニュアンスも増す。影絵が期待を煽ってくる。

 その後、幕が開く演出とともに帝都の遠景が映り、タイトルが登場する。帝国華撃団は、帝都を守り彩るための存在だ。彼女達の舞台・・は、いつだって帝都なのである。

 続いて千代紙をバックに6人の顔が、Aメロ直前の「テッテッテッ!テッテッテッ!」に合わせて、冒頭と同様に切り替わっていく。この映像を見ると改めて気づかされるが、「ゲキテイ」は「3拍」の気持ちよさを随所に配している。イントロやAメロ前の3×2拍、サビの「はーしーれー!」「うーなーれー!」に、聞いた誰もが心を躍らせる。このOPはそれぞれの3拍を、イントロ同様の打楽器的カッティングによって際立たせ、視聴者を煽りまくってくれる。

 歌が始まりAメロでは、様式美に則りキャラ紹介映像が流れる。居合を見せるさくら、舞台で微笑むすみれ、銃を撃つマリア(この女いつもOPで銃撃ってるな……)、瞬間移動で遊ぶアイリス。カットのつなぎが実に凝っていて、さくらが剣を構えると放射状に光が走ってすみれの持つ傘になり、すみれを照らすライトの筋がマリアのバックで赤い長方形になり、カメラがマリアの銃口に入るとライフリングがアイリスの背景のらせん模様になる。

 紙幅もあるのでこの辺にしておこう。絵の美麗さで見れば、例えばプロダクションI.Gによる「サクラ大戦2」OPの方が上かもしれない。だが、『桜華絢爛』OPの魅力は、映像と音楽の絡み合いが生む生理的な気持ちよさにある。

見所2:徹底的ファンサービス

 『桜華絢爛』は、サクラ大戦ファンが膝を打つ、細やかなネタの拾い方も魅力のひとつだ。その一端を箇条書き的に紹介していこう。

 まず、華撃団が集まる過程を描く1話から2話では、実はけっこう外伝小説「サクラ大戦前夜」とエピソードがリンクしている。たとえば第2話、寝室に侵入した降魔をすみれが薙刀で撃退するシーンは、「前夜」に既にほぼ同じ記述が存在し、要所のセリフも揃えられている。

 また、3話では初めて光武での戦いが描かれるが、「雑魚掃討と砲台撃破に戦力を分散させる」「接近しきれない遠くの敵はさくらの必殺攻撃で処理」など、ゲーム版で「あるある」な戦略判断が再現される。そして3話ラストでは、大神とさくらの出会いを止め絵で描く。それがゲーム版第1話の冒頭につながるからこそ、特別な瞬間として演出されているのだ。

 4話はもっとすごい。大神が花組各員の相手をしてまわるシーンでは、それぞれのキャラソンが繋げられた組曲をバックに、ゲーム版のミニゲームを再現していく。バトルパートでは、花組全員がゲームと同じ必殺攻撃を連発し、さくらは大神と合体攻撃も披露する。彼女たちの奮戦とカットバックされる帝劇のオーケストラでは、指揮者がサクラの音楽担当・田中公平だ。そしてこの話数では、大神を導く謎の黒子が登場するが、彼はプレイヤーの分身として描かれている(「サクラ大戦〜桜華絢爛〜 OVAファンブック下巻」川崎ヒロユキインタビュー)。彼が正体を表し、大神と言葉を交わすエンドロールは、ファンなら涙なしには見れないはずだ。

 こんなふうに『桜華絢爛』には、ゲームや小説を熱心に追ってきた視聴者にはたまらない要素が散りばめられているのだ。

見所3:すみれへの愛溢れる演出

 最後に、『桜華絢爛』はすみれ関連のシーンが特に面白い。ここでは一例として、量子甲冑の試作機・桜武を、幼少期のすみれが動かしてしまうシークエンスを取り上げたい。

 ここも「前夜」由来だが、注意して比べると微妙かつ絶妙なアレンジが入っている。祖父に乞われてコックピットに乗り込み、すみれが桜武起動を試みる場面。小説版の記述はこうだ。

 小さい手が桜武の始動キーを回す。十二歳の少女では、桜武の操縦席は大きすぎる。その中でこの始動キーの場所だけは楽に手が届くところにあった。

 一方アニメ版では、始動キーはすみれにとってギリギリ届くか届かないかの位置にあり、苦労して手を伸ばす描写が一瞬入る(「サクラ大戦〜桜華絢爛〜 OVAファンブック上巻」で見れる石山の絵コンテに、「ムリして手をのばしている」と書かれている)。これによって、おじいちゃんを喜ばせたいがため、背伸びしてがんばるすみれの健気さが、さりげなく伝わるようになっているのだ。石山はすみれ推しだというが、その思い入れが反映されているのかもしれない(「サクラ大戦 蒸気キネマ画報」インタビュー)。

 さらにこのシーンは、「新サクラ大戦」を通過した今、より感慨深い。「新サクラ大戦」の時代では、「二都作戦」で帝国華撃団が消滅してしまった後、すみれだけがひとりぼっちで生き残っている。幼少期から量子甲冑の実験に参加した結果、霊力が枯渇し、戦闘に参加できなかったからだ。つまり桜武を動かしてしまったこの瞬間、彼女の悲劇的な人生が運命づけられたのである。そのつもりで見ると、研究員がパイロットの生命より実験が大事だと発言したりしていて、意味深に響くようにもなっている。

 その他、カンナの帝劇脱走を手引きするところなど、演出の冴えで、あるいは「その後」からの逆算で、感動的なすみれ登場シーンは多い。

 以上、『桜華絢爛』の三つの見所を紹介した。ファンサービスの意味合いが濃い作品なので、まず初代「サクラ大戦」をプレイしてから見てみるといいだろう。また昔楽しんだファンも、「新サクラ大戦」以後の目線で見直すと、新たな発見があるはずだ。

サークル夜話.zipによる幻のC98新刊、サクラ大戦評論本『〈サクラ大戦の遊び方〉がわかる本』は各委託書店・電子書籍販売サイトにて発売中。本記事を書いた新野安も編集・執筆で参加している。

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新野安
新野安(あらの・いおり)。1991年生まれの兼業ライター。サークル「夜話.zip」にてエロマンガ評論本を編集・執筆するとともに、『ユリイカ』『フィルカル』『マンガ論争』に寄稿。サクラ大戦のファンでもあり、2020年に『〈サクラ大戦の遊び方〉がわかる本』を発行した。推しはアイリス・ロベリア・昴・初穂・舞台版アナスタシア。