あなたにイチ推し!010-走る走る俺たち『青の祓魔師』オープニング/『STAR DRIVER 輝きのタクト』オープニング

 TVアニメ『青の祓魔師』のオープニング・アニメーションは、ベッドに寝転がった主人公・奥村燐が目覚ましで跳ね起きることからはじまる。

 遅刻を回避すべく騒々しい全力疾走で寮を飛び出していく燐と続けざまにすれ違う、同じ正十字学園の生徒である仲間たち。「悪魔を祓う力を磨く」という共通の目的をもつ彼ら彼女らが、自己紹介がてらとばかりに目まぐるしくカットインする映像は、その軽快に刻みこんだ編集によって、これから始まる物語のもつ側面のなかに《コミカルなタッチの学園もの》があることをまず提示してみせる。この映像の最大の魅力のひとつは、この冒頭における、たたみかけるようなスポッティングの気持ちよさだろう。
 だが続くカット、映像はそのリズムをがらりと転調させる。あれだけ慌てていたのが嘘のように、気のない調子で歩く主人公。跳ねるようだったテンポはぐっと抑制され、寸前まであったドタバタの残滓はどこにもない。あてどなく歩く主人公の表情は孤独をたたえ、そんな彼に同伴するのは彼の相棒である猫又のクロのみだ。

 悪魔という存在が、踵を接したすぐそこにある世界で、サタンの血を受け継ぐ者として生きること。すれ違っていく表情のない群衆のなか独り逆方向に歩いていく姿は、己が《社会の敵》であるかもしれないという彼のすさまじい孤独と重なっていく。歩みを遮る赤信号。立ちふさがる、行き止まりの金網。途方にくれ雨のなか身を投げ出している彼を引き起こすものは、今度は目覚ましの音ではなく、そんな兄の全てを知る弟の手だった。まっすぐに差し出されたその手を握り、身を起こした彼は、目の前の金網を勢いよく飛びこえる。それが彼にとっての《戦いに身を投じる決意》であることを証明するように、そして、けっして孤独な戦いではないことを証明するように、そこには、ともに戦うことになる仲間たちの姿が重なっていく。

 原作は「ジャンプスクエア」(集英社)にて現在も連載中の『青の祓魔師』(加藤和恵)。その最初のアニメーション化の、最初のオープニングであるこの映像には、この長い物語がたどることになる骨子の、ほとんどすべてが、わずか90秒ほどのなかに凝縮されている。
 作品のエッセンスを煮詰めた映像という意味で、まさに理想的なオープニング・アニメーションがここにある。

 

 TVアニメ『STAR DRIVER 輝きのタクト』のオープニング・アニメーションもまた、冒頭に映し出されているのは、草むらに寝転がった主人公の姿だ。

 第1話でこのオープニングが始まる手前のアバン・パートにおける物語のなかで、視聴者はすでに充分驚かされている。突然、舞台である南十字島に漂着・・した主人公・ツナシ・タクトの正体も目的も謎なら、それを迎え入れる島にある奇妙な建造物の正体も、学校の生徒や教師たちの思惑も謎である。奇天烈な仮面をつけて「綺羅星!」という珍妙な挨拶を交わす人々が登場するにいたって、観ている側の「??」はピークに達するわけだが、その直後から始まるこのオープニングもまた、しかし、視聴者が抱えた山のような「??」を解消してくれるものではない。

 草むらから身を起こし、ゆっくりと画面左側へと歩き始める主人公。画面はその速度にぴったりと寄り添いながら、ワンカットで捉え続けていく。歩みは速さを増し、階段を駆け上がるあたりから、息せき切ったような全力疾走へと変わっていっても、画面はただの一度もまばたきをすることなく、その一部始終を追い続ける。
 彼の仲間や、謎めいた、敵であるのかもしれない人々は、ほんの一瞬画面に姿を見せはするものの、すぐに通り過ぎていってしまう(奇しくも、彼のこの孤独な全力疾走にもまた、「副部長」という名をもつキツネのような姿の動物の同伴者が現れ、足元を駆けずり回っている)。やがて海が見えはじめたとき、そこから突如巨大なロボットが現れ、彼の姿は光になって、そこに吸い込まれていく。

 その一部始終が、途切れることのないワンシーン・ワンカットの映像として設計されたオープニング。持続する画面のなか、徐々に加速していく彼の全力疾走が、観ているこちらをも加速度的に引き込んでいく過程は、まさに圧巻の一言につきる。
 謎めいた作品の冒頭をかざる、ほとんどなにも説明することのない、謎の塊をそのまま投げ出すような刺激的な映像。演出者の企みが強度になって観客の心に食いこむ、あざやかなショート・フィルムだ。

 

 世界観、キャラクターの抱えたもの、物語の示唆、そういったものを見事に凝縮して、かつそれを快楽的な映像として提示している『青の祓魔師』OP。
 説明という点では驚くほど不親切なようでいて、しかし作品のトーン、姿勢、なにより《予感》のようなものを存分にすくい上げ、スタイリッシュな映像に昇華させた『STAR DRIVER 輝きのタクト』OP。
 アニメの魅力の理由が作品の数だけあるように、そのタイトルアニメーションもまた、その数だけの、それぞれに違った、魅力の理由をもっている。そして記憶のなかで、互いに結びついたり、反発したり、語らいを交わしたりしている。
 アニメを観続けるというのは、きっと、そういうことだ。

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■『青の祓魔師』(2011年 毎日放送系列)
制作:A-1 Pictures
監督:岡村天斎
 
オープニング 絵コンテ・演出:岡村天斎
 
オープニングテーマ 「CORE PRIDE」
           UVERworld
 
※U-NEXT、dアニメストアほかで配信中
 
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■『STAR DRIVER 輝きのタクト』(2010~2011年 毎日放送系列)
アニメーション制作:ボンズ
監督:五十嵐卓哉
 
オープニング コンテ/演出:渡辺信一郎
 
オープニングテーマ 「GRAVITY Ø」
           Aqua Timez
 
※U-NEXT、dアニメストアほかで配信中
 
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尾曽根正吉(おぞね しょうきち)

尾曽根正吉(おぞね しょうきち)

本編を観るのと同じくらい、タイトルアニメーションを観るのが好きです。 機長さんにお声がけいただき、寄稿させていただくことになりました。