30年以上に亘って日本の子供たちを魅了し続けているTVアニメ『それいけ! アンパンマン』(1988-)の原作者、やなせたかし。彼は1950年代より絵本作家や漫画家、作詞家、詩人と多彩かつ精力的な活動を見せたことでも知られるが、そんな彼が自ら作・構成と演出を担当したアニメーション作品がある。1977年にサンリオによって製作された『ちいさなジャンボ』だ。
『ちいさなジャンボ』は、後に『ユニコ』や『シリウスの伝説』をはじめとする数々の良質なアニメ映画を送り出すサンリオが初めて手がけたアニメーション作品である。元々サンリオの出版事業と縁深かったやなせが自らの絵本を原作とし、挿入歌には自らが作詞した曲を用いて作った本作は、翌年に製作された『チリンの鈴』(本作と同じくやなせの絵本が原作でサンリオが製作した)以上にやなせの特色が強く出ているといえるだろう。
30分程度の中編だが、全編にわたって様々な歌が歌われるミュージカル仕立ての作品となっており、作画や演出も非常に上質で見応えがある。映像面では、共同演出を務めた平田敏夫や波多正美、作画を担当した中村和子や山本繁をはじめとして虫プロ系のスタッフが数多く参加。仕上協力にはマッドハウスが名を連ねており、虫プロ出身の人材を中心にスタッフを集めたことが伺える。
音楽を担当したのは1960年代より「手のひらを太陽に」をはじめとする楽曲でやなせとタッグを組んできたいずみたく。作中で「手のひらを~」を含むやなせといずみによる様々な童謡が歌われているのが嬉しい。
あらすじは以下の通りである。
美しい島で、王様と3人の国民が楽しく暮らす「幸せの国」。そこに赤い箱に乗って突然訪れた象使いの少年バルーと小象のジャンボは、国民と王様に様々な芸を見せる。幸せな日々を過ごす国の住民だったが、ある日島を挟む2つの国が戦争を始める。両国が放つ砲弾は島にも着弾し、国はたちまち荒廃してしまう。食糧難に陥った国ではジャンボを殺すことになるが、ジャンボを殺せないバルーは自らを殺して食料にしてくれと王様に頼み――。
本作の魅力は、寓話性を軸としたメルヘン世界に現実世界に接近したハードな描写を取り入れた点にある。反戦要素の色濃いハードなストーリーを、可愛いフォルムのキャラクターやポップな色彩の背景美術によって寓話性のオブラートに包み込んでいるのだ。
メルヘンと現実の狭間で、本作のキャラクターたちは歌いつづける。爆発に巻き込まれ死んだと思われたジャンボが息を吹き返すと、島では「手のひらを太陽に」が歌われる。「ぼくらはみんな 生きている 生きているから 笑うんだ」の歌詞と共に島は瞬く間に復興していき、歌の力によって島は厳しい現実の世界から再び幸福なメルヘンの世界へと回帰する。本作のキャラクターは歌によって生命力を取り戻し、歌によって再び幸福を掴むのである。メルヘンと現実の狭間で「生命」を歌い続けるキャラクターの姿に、我々は感動を覚えるのだ。
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