これまでWeb発のライトノベルといえば異世界モノのイメージが強かった。しかし、最近ではラブコメ作品の人気も高まっており、その勢いは『涼宮ハルヒの憂鬱』や『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』をはじめとするTVアニメなどのメディアミックスによるヒット作が続いた2000年代後半から2010年代中盤に見られた盛り上がりの兆しを彷彿させる。中でも、このブームの中心的存在である作品『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』のTVアニメの放送が2021年春に決定し、ますますの盛り上がりを見せている。そんなブームの中でも、他の作品とは違った魅力を持つ『カノジョに浮気されていた俺が、小悪魔な後輩に懐かれています。』を紹介したい。
恋人の相坂礼奈に浮気され、別れたことを引きずり続けながら、クリスマスシーズンを迎えた大学生の主人公、羽瀬川悠太。そんな彼がちょっとしたトラブルから後輩の志乃原真由と出会うところから物語は始まる。高校からの腐れ縁である女友達の美濃彩香や、大学の友人たちと楽しいキャンパスライフを送りながらも、少しずつ変わっていく悠太と真由の関係性と、その周辺の人間模様を描いたラブコメ作品だ。
この作品はWeb発のラブコメ作品の中でも特異な魅力を持った作品である。その特異な点として、「実在することのように生々しく描かれた登場人物や物語」と「恋愛を綺麗ごととして描かない」ことが上げられる。
ラブコメ作品では、登場人物のキャラクター性を前面に押し出すことが少なくない。前面に押し出されて描かれた強いキャラクター性やキャラクターを印象づける出来事は、時にその物語を絵空事のように感じさせてしまうことがある。本作の登場人物は、リアルというかどこか生々しいさも感じるほどだ。わかりやすいのが1巻の合コンのエピソードだろう。悠太は彩香に頼み込まれクリスマスの合コンに参加することになる。大学の中では人望のある彩香の集めた人間だったのでつつがなく進むと思われた合コンだったが、元坂といういかにもチャラいといった感じの男が彩香を口説き落とそうと一人で盛り上がり始め、参加者の間にピリついた空気が流れ始めるのだ。彩香は、できるだけ皆と仲良くなっていた方が損をしないと考えるタイプの人間なので元坂を無下に扱うことも出来ず、何とか場を取り持とうとする。また、バスケサークルのエピソードでは、失恋のせいで長らく参加してなかったサークルにやってきたかと思えば、何も無かったかのように志乃原を引き連れてくるという、悠太が女性と接することに慣れている感じを自然に描いていた。実際に見たことがあるかは別にして、こういった経験がない人でも、実際にありそうだと感じるのではないだろうか？
本作は、自分以外の誰かは経験してそうな青春をきれいに描き切っており、読者の「もしかしたら自分にも起こりえたのではないか」という気分を引き出すことに成功している。いかにも空想といった具合の青春ではないから、読者に深く突き刺さるのだ。
もう一つの魅力、それは「恋愛を綺麗ごととして描かない」という部分だ。本作で描かれる恋愛描写は、ただただ甘くて心地のよい描写が連なっているだけではない。腐れ縁である彩香との過去の話や、主人公の元カノである礼奈が浮気をした理由、ヒロイン同士のつながりなどの各所にちりばめられた不穏な要素が物語に奥行きを持たせるスパイスとなり、これが読者にページをめくらせる大きな要因になっている。
本作は知る人ぞ知る作品であったが、少しずつ口コミでその人気が広がり重版を繰り返すことになった作品で、今後注目される作品といえるだろう。既刊もまだ3巻と追いつきやすい。ラブコメが好きな方にはぜひ手に取ってもらいたい一作だ。
柳川春海