あなたにイチ推し!009-『クロスアンジュ』=『けいおん!』説!?Blu-ray BOX特典から妄想する

 2014-5年に放映され、そのあまりにも過激なエログロと自己中心的な女性主人公によって視聴者に拒否反応を巻き起こしながら、マンガ家の種村有菜を始めとする一部の視聴者に熱狂的な支持を受けたカルトロボットアニメ、『クロスアンジュ』。放送終了から6年が経った今年の3月、ついに本作のBlu-ray BOXが発売された。

 このBOXには、単巻商品に収録されていた映像特典が全て含まれる他、設定資料や新規インタビューを含む約100Pのブックレット「CROSS ANGE MEMORIES」が付属する。このブックレット、以前のムックでは公開されていなかった情報も多く、ファンならば必見といえる内容である。今回は、Blu-ray BOXによって新たに見えてきた内容も織り交ぜつつ、このアニメの意外な成立過程を紹介したい。

 ライバルはラブライブ?

 「マナ」と呼ばれる技術(いわゆる「魔法」に近いもの)によって、人類が戦争や貧困から解放された世界。唯一の社会問題は、一定確率で生まれるマナを使えぬ女たち、「ノーマ」の存在だった。主人公のアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギは、ミスルギ皇国のお姫様として何不自由ない生活を送ってきた。だがある日兄のジュリオによって、アンジュリーゼがノーマであるという、彼女自身にも隠されていた事実が暴露されてしまう。ノーマは収容地・アルゼナルに移送され、パラメイルというロボットに搭乗し、異世界からの敵・ドラゴンと戦う兵隊としてのみ生存を許される。『千と千尋』ライクに名前を奪われ、「アンジュ」としてどん底に堕ちた公女は、理不尽な環境をたくましくサバイブしていく。

 『クロスアンジュ』最大の特徴が、アンジュの強烈な活躍ぶりにあるというのは、衆目の一致するところだろう。常に上から目線で、平気で他人を蹴落とし、絶対に意見を曲げない。所持品検査だといって上官に尻穴をまさぐられたり、先輩パイロットからのいじめで椅子へ画鋲を仕掛けられたり、いろいろと酷い目にあいながらも、気持ち良いまでに唯我独尊を貫く様子が、いつしか視聴者の喝采の対象となっていた。

 ところが企画当初の『クロスアンジュ』は、こんな刺激的な内容ではなかったという。映像特典のインタビューによると、もともとは清廉潔白でお姫様然としたアンジュが、やさぐれた仲間を導いていく内容だった。そこへ、『機動戦士ガンダムSEED』や『GEAR戦士 電童』で知られる福田巳津央がプロジェクトへ参入し、アンジュの性格変化やエロの増強などといった大改造を施していくことになる。

 この「幻のクロスアンジュ」について、Blu-ray BOXのブックレットや過去に発売された関連書籍の証言を他にも列挙してみよう。

 ・「サンライズ×キングレコード」の組み合わせで、人気声優で美少女ロボットアニメという企画意図
 ・日常アニメ
 ・夜中に疲れて帰ってきたサラリーマンに癒しを与えるアニメ(以上3つ、監督・芦屋芳晴)
 ・学園ものみたい
 ・スポ根ものみたい(以上2つ、クリエイティブプロデューサー・福田巳津央)

 本作の企画が立ち上がったのは2010年11月だった。この時期を念頭に、上ののほほんとした箇条書きを睨むと、妄想が膨らんでくる。おそらく当初の『クロスアンジュ』は、『けいおん!』(2009・2010)のロボットアニメ版を、水樹奈々や田村ゆかりといった既に人気の確立した声優でやってみようじゃないか、という趣旨のプロジェクトだったのではないだろうか(2013・2014年にいわば「サンライズ×ランティス」で『ラブライブ!』が放映されたことも思い出してほしい)。

 「癒し」アニメが求められる当時の情勢に対し、日本の漫画映画が持っていた不良性を取り戻したかった。福田は『クロスアンジュ』の制作意図として以上のような内容を何度か語っている。その背後には、当初の企画が時代に寄り添ったものであったからこそ、反動によってより大きな飛距離を持って反時代的方向に行った、という事情もあったのだろう。

 ちなみにBlu-ray BOX付属のブックレットではこの変化の過程を、ビジュアル面から楽しむことができる。アンジュのデザインについて、キャラクター原案・松尾祐輔による複数の初期案・原案と、キャラクターデザイン・小野早香による最終版を見比べることができるのだ。特に従来のムックには収録されていなかった初期案は、垂れ目気味でおっとりしたイメージだったり、そばかすがあって垢抜けない感じだったりする。監督の芦屋によれば、アンジュが今ほど過激化したのは松尾が参入した後とのことなので、このあたりは企画初期を引きずって描かれているのだろう。

背水の陣から生まれた奇襲的作品

 漫画映画が持っていたアナーキーさの復権。そのような意図が『クロスアンジュ』過激化として現れたのは、それはそれで間違いではなかろう。その一方で、放送から時間を経たBlu-ray BOXの新規インタビューによって見えてくるのは、製作陣が「仕方なく」過激化に追い込まれていた側面だ。

 例えば福田は、アナルフィストファックに代表されるようなシモ要素を強化した理由について、そうするしかなかった、と語っている。この企画は『ガンダム』のような「保守本流」の作品にはなり得ない、と彼は直感した。特に、主人公たちが搭乗するロボット・パラメイルは、あまりにもスタイリッシュすぎて、彼に「売れないデザイン」と映った。だから端っこの作品として、ロボではなくエロで視聴者に爪痕を残すしかない、と考えたのだという。

 あるいは最終決戦中、アンジュが平気で一般市民を射殺するシーンがある。ノーマを差別する大衆を、彼女は「言葉の通じない醜くて無能なブタ」として蔑視しているのだ。非常に印象的なこのシーンについて、監督の芦屋芳晴は今回のインタビューで後悔を語っている。市民に否定されて始まる物語である以上、本当はアンジュが国民全体を説き伏せるシーンで終わらせたかった。放映中リアルタイムで話を作っていった都合上、話数が間に合わず、民との対峙は射殺で終わってしまった、というのだ。しかしもし、もっと制作状況に余裕があって、芦屋の想定したラストに無事たどり着いていたなら。大衆は説得ではなく殺害の対象だというアンジュのエクストリーム反民主主義は、作品から失われてしまったことだろう。

 決して恵まれているとは言えない環境だからこそ生まれた、尖りに尖った奇襲的作品、『クロスアンジュ』。一度地に堕ち、ゆえに強い意志で世界に挑戦し続けたアンジュにとって、実に相応しい誕生秘話ではないだろうか。当時TVシリーズを追ったファンも、まだ見たことのない人も、そんな背景事情に思いを馳せつつBlu-ray BOXで見直すと、より楽しめるのではないかと思う。

参考文献
「クロスアンジュ キャラクター&VOICE BOOK」
「クロスアンジュ デザインワークス」
「グレートメカニックDX30」
Blu-ray BOX 特典ブックレット「CROSS ANGE MEMORIES」
Blu-ray BOX 映像特典「モモカが聞く!アンジュ誕生の秘密!スペシャルインタビュー」

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新野安
新野安(あらの・いおり)。1991年生まれの兼業ライター。サークル「夜話.zip」にてエロマンガ評論本を編集・執筆するとともに、『ユリイカ』『フィルカル』『マンガ論争』に寄稿。サクラ大戦のファンでもあり、2020年に『〈サクラ大戦の遊び方〉がわかる本』を発行した。推しはアイリス・ロベリア・昴・初穂・舞台版アナスタシア。