以前本コラムで取り上げた『悟空の大冒険』が虫プロ流ギャグアニメの代表格とするならば、1960年代における東映動画のギャグアニメの代表格には何を選ぶのが適切だろうか。フリーキーなギャグが炸裂する『ピュンピュン丸』(‘67)や個性派キャラが魅力的な『もーれつ ア太郎』(’69-70)を挙げる人は多いかもしれないが、『ハッスル パンチ』(’65-66)を挙げるアニメファンはそう多くないかもしれない。
本作は前2作と異なり、そもそもシリーズ全話を容易に視聴できる環境が近年まで用意されていなかった。モノクロ作品であるために再放送の機会にも乏しく、作品の存在は知っていても全話通して視聴したことがある人は決して多くなかったはずだ。幸い現在は、ベストフィールド社が2016年に発売したDVD-BOXによって全話視聴することが可能である。
そんな従来「マニア向け」の枠に押し込められがちだった本作だが、作画面をはじめとして魅力的な部分が数多く見受けられる。かわいらしいフォルムでのびのびと動くキャラクターからは、当時電波に乗ってお茶の間を賑わせていたアメリカ産カートゥーンの息吹を感じさせる。本作の原案・キャラクターデザインを担当した森やすじは、本作以前にも『こねこのらくがき』(‘57)や『こねこのスタジオ』(‘59)といった短編作品でかわいらしいキャラクター主演のコメディに挑戦していた。
本作は森を筆頭として日本アニメーション史に名を残すスタッフが顔を揃えており、池田宏、大塚康生、奥山玲子、小田部羊一、宮崎駿、芝山努、小林治、林静一……と錚々たる顔ぶれである。動画枚数こそ制限されてはいるが、ケレン味の効いた軽やかなアニメートがその制限を作品の魅力に昇華させている。
本作の根幹をなすユーモアには、本場アメリカのカートゥーンや、のちの『悟空の大冒険』『ピュンピュン丸』ほどの突き抜けた暴走ぶりはみられない。テンポも比較的のんびりしており、どこか牧歌的な雰囲気が漂っている。本作の放送終了からわずか1年で、作画も演出もネジがバッチリ緩んでしまった怪作・『ピュンピュン丸』が誕生したというのだから面白い。
東映動画のTVシリーズは、『ピュンピュン丸』の頃になるとハテナプロや落合プロといった外部のプロダクションに作画工程を下請けさせることが多くなっていた。そのため作画の質にムラが出るようになってしまうのだが、本作は一部回を除き社内スタッフによる制作が中心となっている。本作の高品質なアニメーションは、日動時代から続いてきた伝統がTVアニメの量産によって薄れてしまう直前の、最後の輝きだったともいえる。
そんな本作の誕生過程に東映動画の出発点となった『こねこのらくがき』を手がけた森やすじが深く関わっていたのは、幸運なことだったといえるだろう。
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