サクラ大戦25周年を勝手に応援!「アニメで究めろサクラ道!」06:「ネオCG」アクションを見逃すな!『エコール・ド・巴里』

 前回までで帝国華撃団のアニメ作品はおしまい。今回からは巴里花組だ。

 今回取り上げるのは2003年発売のOVA、『エコール・ド・巴里』全3話である。名前からわかるように、「サクラ大戦3」で新登場した巴里華撃団を中心にしたシリーズだ。最初の2話が、ヒロインたちがゲームに登場する前のお話。最後の1話はゲーム本編のサイドストーリーだ。この構成は、帝国華撃団の最初のOVA『桜華絢爛』を踏襲している。

 この作品は話数やシーンごと、もっというとカットごとに内容のばらつきが大きい。全3話しかないので、各話にコメントしていく形式でいこう。

アクションカットは本気出す!「夜明けの花」

 第1話は、巴里華撃団メンバーの最初の二人、エリカとグリシーヌの出会いの物語だ。後に華撃団に合流するコクリコと花火とロベリアもチョイ役で登場し、本編前の生活を垣間見せる。また小ネタとして、「サクラ3」プレイヤーに強烈な印象を残した、エリカの「おはようダンス」の誕生秘話も出てきたりする。ゲーム版に繋がる要素が多く、ファンは必見! と言えなくもない。ただどのエピソードも、単独で興味を引くものではなく、ただ本編に繋がっている「だけ」とも言える。正直、ちょっと退屈な話数だ。

 話のテンションの低さを反映するように、画面や演出もかなり平板。ただし、終盤のアクションシーンの一部カット(18分15秒あたりから)だけは、なぜか飛び抜けてすごいので注目してほしい。例えばエリカがトレードマークである大型マシンガンを持ち上げるカットは、得物の重さが感じられるタメがあり、グリシーヌが斧を振り下ろして敵を両断するカットでは、表情が鬼気迫りすぎて怖いほど(コマ送りすると作画が崩れているように見えるコマもあるが、それがかえって迫力になっている)。ケレン味がありすぎて全体から浮いているくらいの見所である。

「黒猫と悪女」 怪獣王ロベリア

 第2話は、懲役1000年の大悪党にして、後の巴里華撃団メンバー、ロベリアを1話まるごとフィーチャーしている。ちなみに私はロベリアの大ファンで、「サクラ大戦」シリーズの評論本を作った時にも、編集長権限でロベリア関連のページを増やしたりしていた。そんなファンとしての実感で言うと、やりたいことはわかるけど、うまくいっていない印象を持つ話数である。

 冒頭、いきなりショッキングなシーンが出てくる。ゆきずりの男と一夜を共にしたロベリアが、白いシーツだけを身に纏って彼を見送るのだ。流れる噂によれば、ロベリアはいつもくたびれた男を選び、ベッドに連れ込む。しかし、体の関係を結ぶことはない。それでも男は満たされ、「マリア様とオネンネ」したように癒されるのだという……。

 たぶんこのオープニングシーンは、いわゆる「聖娼」をイメージしている。「聖娼」とは、文字通り聖なる娼婦のこと。巫女とのセックスを宗教的な儀式として行うもので、キリスト教以前の宗教文化に存在したとされる。セックスを連想させるシーンが全年齢向けゲームのOVAに出てくるのはそれなりにびっくりするが、ロベリアのキャラからすれば違和感はない。彼女はゲームでも、経験の豊富さをセリフで匂わせ、個別ルートでは大神一郎と肉体関係を結んでさえいる(ようにしか見えないシーンがある)。お色気はあれど、具体的な性をほとんど感じさせない「サクラ大戦」の中では、例外的なアンチ・ヒロインだ。

 むしろこのシーンが謎なのは、結局ロベリアがゆきずりの男と関係を結ば「ない」ところだ。ファンとして言わせてもらうと、ロベリアはビッチだからかっこいいのだ。OVAは最終的に処女厨的感性に落ちてしまっているように見えて残念でならない(処女懐胎した「マリア様」が持ち出されるわけだし)。もしも気を使って、「前の男」を見せないようにしているのなら、余計なお世話でございます。

 後半は華撃団の司令であるグラン・マと、彼女を補佐する迫水が、ロベリアを逮捕するための作戦を展開する。ロベリアが潜む地区を封鎖し、建物を爆破倒壊させたり、あるいは磁力で人を浮かせる超兵器を持ち出したり、かなり大がかりだ。しかしロベリアは圧倒的な霊力で、こととごくこれを打破していく。

 少々穿った想像をすれば、この後半はたぶん、「サクラ大戦」の中でゴジラ映画をやろうとしているのではないか。二重三重の作戦を実行していく自衛隊と、圧倒的な力でそれを無にしていくゴジラ。両者の攻防を、グラン・マ&迫水対ロベリアで再現しているように見える。どことなく超兵器も、東宝怪獣映画に出てくるメーサー砲みたいな見た目だし……。

 だがそういうものとして成功しているかというと疑問が残る。グラン・マ&迫水が、あらかじめ作戦を視聴者に教えずに攻防を進めるので、「次の作戦は上手くいくのか? いかないのか?」というスリルが生まれないのだ。それでも前話同様、最後の最後のアクションカットだけケレン味が急上昇するので、ロベリアファンはそこを楽しみに見るといいだろう。

これが「ネオCG」だ!「恋する都市」

 第3話は、巴里華撃団のメンバーが全員揃った後の話で、隊長である大神一郎もガッツリ絡んでくる。突如暴走した無人兵器を止めるため、衝突していた華撃団が一致団結するという内容。いかにも「サクラ大戦」らしいわかりやすいストーリーで、全3話の中ではもっともおすすめだ。

 大神が華撃団メンバーの一人一人に振り回されていく様を、それぞれのメインテーマのアレンジBGMと共に見せていく前半、そして光武の戦闘がフィーチャーされる後半、この構成は『桜華絢爛』の最終話「真夏の夢の夜」を踏襲している。

 この戦闘シーンこそ、第3話最大の見所だ。本作は基本的にラディクスが制作しているが、CGで描かれる光武の戦闘は、ゲーム版「サクラ大戦3」を開発したオーバーワークスが担当している。といっても、ゲーム版を再現しているわけではない。むしろ、「見たかったけども見れなかった光武」をこそ見せてくれる。

 たとえばそれは、激しく攻守が入れ替わる高速の殺陣である。シミュレーションゲームである「サクラ大戦」シリーズでは、画面に映るのは見得を切って一方的に攻撃する光武だ。しかし本来の戦闘ではシームレスな攻防が続くはず。それを本作では見られるのだ。また、マシンガンの弾を切らしたエリカが、銃自体を武器として利用し始める描写も、弾数の概念がないゲーム版では見られない。全体的に、リアルな緊張感を感じさせる戦闘に仕上がっている。

 そして圧巻なのが、エリカ機の前部装甲が破壊され、コクピット内のパイロットが露出したまま戦闘が続くクライマックスだ。ボトムズのスコープドッグすら下回る、2-3mの小柄なロボットだからこそ可能な演出。しかし実現しようとすれば、3Dモデルの戦闘シーンに2Dのキャラクターを合成しなければならない。3Dの光武が激しく動き、さらにカメラ自体も動く中、2Dのエリカがコックピットにかっちり嵌め込まれてフルコマで描かれた終盤の数秒は、2021年の今見てもおおっと驚かされる。「サクラ大戦3」の広報では、アニメとCGを融合した「ネオCG」が提唱されていたが、ゲーム版以上の完成度で「ネオCG」を実現した名シーンと言えるだろう。

基本的にはファン向けの作品

 以上全3話にコメントしてきた。映像特典でのあかほりさとるの発言によると、このOVAからゲームへ人を呼びたい……というような意図もあったようだけれども、それはちょっとうまくいっていないのではないか。いまいち焦点が定まらない散漫な全3巻であり、基本的には既にゲームをプレイした人が、ひいきのキャラクターに少しでも多く接触したいと思って手を伸ばす作品だ。もし実際に手を伸ばした人は、上に解説した見所を、ぜひ見逃さずに楽しんでほしい。

サークル夜話.zipによる幻のC98新刊、サクラ大戦評論本『〈サクラ大戦の遊び方〉がわかる本』は各委託書店・電子書籍販売サイトにて発売中。本記事を書いた新野安も編集・執筆で参加している。

●過去の記事を読む

Pocket

The following two tabs change content below.
新野安
新野安(あらの・いおり)。1991年生まれの兼業ライター。サークル「夜話.zip」にてエロマンガ評論本を編集・執筆するとともに、『ユリイカ』『フィルカル』『マンガ論争』に寄稿。サクラ大戦のファンでもあり、2020年に『〈サクラ大戦の遊び方〉がわかる本』を発行した。推しはアイリス・ロベリア・昴・初穂・舞台版アナスタシア。